良い筆を作るためには、良質の原毛が欠かせません。また筆作りには様々な動物の毛を使用しますが、筆を作るためだけに原毛を収穫するという事はほとんどありません。食用等の副産物として供給された物の中で筆作りに適した原毛が使用されています。動物の命を最後まで大切にという思いで道具を大切にして頂ければと思っています。

清晨堂は天然原毛を用いて筆づくりを行います。以下、原材料を紹介します。


ロシア シベリアが原産で、しなやかなコシを持ち、毛が小筋であるため含みが良いのも特徴です。面相や線描筆等に主に使用されます。尾が筆に使われ、他の部分は毛皮製品等に加工されます。

中国北部が原産で、しなやかな調子を持ち、コリンスキーより毛が太くコシが強いのが特徴です。日本画筆に向いており、線描筆・面相に主に使用されます。コリンスキー同様、尾毛が筆に使われます。洋画筆でいうセーブルと同一の原毛です。

温暖な気候の日本イタチは毛に身が入らず、丈も短くコシもないため清晨堂では使用していません。

中国無錫が原産で含みが良いのが特徴です。羊毛(ようもう)と呼ばれますが実際には羊(ひつじ)ではなく山羊(ヤギ)を指します。様々な筆、刷毛の含みを良くするために使用されます。中国では山羊の毛は食用として珍重されており、旧正月に食用として調達された後、原毛が市場に供給されます。

水で濡らすとキラキラと光ることから光(ひかり)と職人の間では呼ばれています。中国無錫産で胴毛よりコシが強く、日本画筆に最も多く用いられる原毛です。則妙や彩色、刷毛、連筆等様々な物の主原料として用いられ、天然原毛かそうでないかで品質に大きな差が出ます。

機械精毛

天然原毛

機械精毛された束毛(そくもう)と呼ばれる物は、廉価な水刷毛等によく用いられますが、天然原毛と比べると品質は大きく異なります。


国内産の狸は滑らかで強いコシを持ち、胸毛の良質な部分(白狸、合狸)は線描筆、面相筆に主に使用されます。背毛の黒狸は彩色筆等に使用されます。元々非常に高価で稀少でしたが現在は調達すら困難な原毛となります。ただ使用する量が少量なので数十年分の原毛は確保しています。

中国産の白狸(胸毛)でコシが非常に強く、線描、面相に使用される良質の原毛です。

中国産の黒狸(背毛)で彩色筆等に強みを出すために使用されます。

三毛猫の真っすぐな背筋の毛を使用します。色毎に白玉、きじ玉、黒玉とありますが、白玉が筆に最も向くとされ、清晨堂では白玉毛を面相筆や特製則妙等に使用しています。非常に高価で現在は新たな調達は困難です。皮は三味線のボディに使用されてきました。

日本画筆にはカナダ産の松リスを主に使用します。柔らかくて含みがよく、また毛先が尖り根元が張っているので、絵具のおりが良いのが特徴です。金泥用の筆の周りに巻いたり、金泥用の刷毛や平筆に混ぜて用いられます。

茶馬、白馬の胴毛は共に全くコシがないですが、含みが非常に良いという特性を持ちます。含みを補完するために、少量を筆の周りに巻く上毛(うわげ)に使用します。

茶、黒、白馬尾毛は毛が長くて太く、コシが強いのが特徴です。長穂の筆や刷毛のコシを補完するためにコルセットのように筆の喉から腰に打つことが多い原毛となります。白馬尾毛はバイオリンの弓毛にも使用されます。

サンバーとよばれる鹿で、東南アジアが原産の原料です。毛が非常にバサバサしていて、ぼかし用の唐刷毛やかすれ用の山馬筆等に用いられてきましたが、現在は調達が困難で、通常の唐刷毛は他の鹿の原毛を使用しています。鹿の毛は中に空洞があるため、短い鹿毛を筆の一番下に打ち、焼き締めの際に締まりを良くし、脱毛しずらい筆にするためにも使用されます。