2020.11.26

工房風景

筆工房風景 筆作りに大切なこと その1「原毛」

毎日筆作りをしていて、大切にしていることがいくつかあります。

まず第一に大切なものは原材料、つまり原毛です。
ホームページにも詳しく書きましたが、基本的に筆を作るために
動物をとるという事はなく、ほとんどの物が副産物として供給されます。

例えばトップの写真は山羊(やぎ)の胴毛、尾毛です。
羊毛筆(ようもうふで)とよく言いますが、sheepではなくgoatを指します。
山羊は中国で食用として珍重されており、旧正月のお祝いの後に余った原毛が市場に
供給され、GWにそれを商社が買い付けるという具合です。
実物が見たいので、以前は中国の無錫に父と原毛の買い付けにも行っていました。

原毛にも色々あり、機械精毛された束毛(そくもう)と天然原毛では
品質が全く異なります。(天然原毛と束毛の比較はこちら
職人がどんなに技術を駆使しても悪い原毛の品質を変えることは
できません。
筆を作る一番の土台として、良質の原毛の確保が絶対条件となります。

高価な原毛の例としては、イタチや玉毛、日本狸等があります。
一包みで数十万円するような原毛もあります。
値段が高いだけでなく、近年はほとんどの物が稀少になっています。
以下の写真は馬胴毛(ウス)ですが、新聞紙の日付で1995年に父が
下仕事したものです。値段は安いものですが、今はなかなか手に入りません。
倉庫の原毛を開いてみると私が生まれる前のものもあったりします。
毛は防虫剤と乾燥剤を入れれば劣化することはなく、長期保存が
可能です。

戦後の原毛調達が困難な時代を経験した祖父が
「筆屋だったら銀行にお金を預けるより、原毛を買い貯めておきなさい」
とよく言っていたそうです。

受け継いだ原毛を大切に、またこれからも数十年先を見据えて
さらに充実させていく事が家業として筆作りを続ける上で大切だと
日々感じています。

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